100円で買える幸せ

「…買ってあげようか?」
夕方のコンビニエンスストア。ヨーグルトとかプリンとかのカップデザートが並んでいるクーラーの前で仁王立ちしている三上を発見したのは、ちょうど正月も4日に差し掛かる頃だった。私は自動ドアをくぐって、視線の先に三上の後ろ姿を認めるなりさっと近寄っていって肩をたたくと、
「…っ!!???」
まるで飛び上がらんばかりに彼は驚いた。そして物凄い形相でふりむいたので、私は思わずクックと笑いを堪えながら、ごまかすように軽く頭をさげた。
「あけましておめでとう」
「んだよ、お前かよ…驚かせんじゃねーよ」
「自分で勝手に驚いてんじゃん。何で悩んでんの?買ってあげようか?」
「まじ?これとこれとこれとこれ」
「死ね」
「…やっぱ?じゃあこれ」
「残念!チャンスは1回です!」
「は?意味ふめー…、つーかお前買いすぎなんじゃねえ?何これ…弁当とか…それ以上豚になってどうすんの…?」
「正月早々しつれいな…!うちの寮はまだ食堂開いてないから、自分で食事調達せにゃならんの」
「んあ?まじ?そんなことあんの?」
「あんの。しかも正式な帰寮日はあさってだからさ〜〜人少なくてさびしいの〜〜〜」
「何それ、誘ってる?俺のこと誘ってる?」
「全然全く」
「…。てかお前ももっとゆっくり帰ってくればいいんじゃねえの」
「しょうがないの。おうちの事情ってやつ」
「へ〜」
「あ、興味なさそう」
「興味ないもん」
「ふん。あ、宿題やった?」
「…やった」
「何、その間。やってないでしょ」
「やった」
「何言い張ってんの?バレバレだから」
「よし、精算してこ」
「あ、私もいく〜。ていうか今ごまかしたでしょ」
「ついてくんなアホ」
「いいじゃん、ついてくくらい。ゆったでしょ、私寂しいの」
「しんね〜まじうぜ〜」
「…あ、肉まん」
「買ってやろうか?」
「……」
「……」
「……」
「…いや、なんか反応しろよ。いたたまれないから」
「期待させて落とす作戦には乗らまいぞと思いまして」
「妙なとこで用心深くなってんじゃねえよ。買ってやるよ。肉まん?」
「え、まじで?本気?うん、肉まん…あ、やっぱピザまんね」
「ピザね。ハイハイ」
「あ、やっぱアンまん」
「アンね」
「あ、やっぱ豚まん」
「おい」
「はい?」
「いっぺん死ね?……すいませ〜ん!あと肉まんふたつください」

「今年は寒いね」
連れ立ってコンビニを出ると、北風がびゅうと容赦なしに吹いてきて、その冷たさに体を縮こまらせた。
「あー、な」
「いやんなる」
「ん、肉まん」
「あ、どうも」
差し出されて手にとった肉まんは、凍えた手のひらには熱いくらいの温度だった。慌てて右と左で交互に持ち替えながら、はふっとかじりついた。外気にさらされもうすでに冷たくなり始めている皮を噛み切ると、内側にたまっていた熱気がじわりと口内に広がる。重ねて立ち上る湯気に、私は目を細めた。
「しあわせ〜」
「…100円で買える幸せ、なんつって」
「三上」
「あ?」
「サムい」
「…うるせえ」
「あ、でも、三上が私に幸せを買ってくれたってことかな?それ、ちょっといいかも」

(…ん?ちょっといい?何がいいんだ?)
(あれ?これは何?胸の奥が暖かくなってくるかんじ。…肉まんの威力?)
(これが噂の肉まんパワー?)
(何それ、さむいさむい、三上以上に寒い)

(あれ?でもなんで三上は私に幸せを買ってくれたんだろう?)

私は三上がゲホゲホと咳き込む声にふと我に帰って、肉まんのカケラを口の中に放り投げた。

(…で、なんで買ってくれたの?)
学校まであと、300メートル。

 

 

(ブラウザバックでお願い致します。ていうかくだらなくてすみません…)