膝を抱えて座る、の手の中の携帯電話にふと目がいった。

今朝までは確かにあったはずの、あの自分があげたストラップはそこにはなかった。

 

ゆ ら ゆ ら   それから

 

山根が、好きなわけだ。

なんとなく確信に近いものを感じた。ストラップがないのは多分、心境の変化というやつだ。
それなら、こっちにだって考えはある。
そもそも別に好きなわけじゃないんだ、こんなやつの事なんて。

「つーかお前、俺様がやったストラップつけてねえじゃねえか」

探りをいれるつもりで、決定打を与えるつもりで言ったつもりだった。…のに、語尾が掠れてちゃ話にならない。全然格好がつかない。つーか、廊下に正座させられといて今更かっこもなにもないんですけど。
俯いていた
が、ハッとしたように顔をあげた。
前触れもなく視線が合って、思わずドキっとする。
いや、まてよ、俺は別に好きなわけじゃ……。
流されそうになる自分を必死に食い止めて、ぐっと握った両手に力をこめた。掌が汗でベトベトする。
そんな心中の葛藤を知って知らずか、
が何か戸惑うように口を開いた。

「…落としちゃったみたい、なの。多分清水寺で」

「…え?」

瞬間、目が剥きでるかと思った。さっきから密かに限界の領域に達していた両足のしびれが、一瞬どこかに消えてしまう。

頭に浮かんだのは、清水寺で集合時間に遅れてやってきて、次の金閣寺に行っても落ち着かない様子でしばらく話し掛けても心ここにあらず、だったの姿。落し物をしたらしい、という話は会話の盗み聞きで知っていた。でも、何を落としたかってことまでは……。

もしかしたら、もう少しだけ、もう少しだけ、

希望をもってもいいのだろうか。

墓穴を掘ってしまったと、後悔の念に襲われなくてもいいのだろうか。

「…山根が好きなんじゃねえんだな?」

確認を入れるように、言質をとるような言い方をする自分に女々しさを感じてうんざりしながら、それでもの返答をすがるような思いで待った。

「そういう意味では、好きじゃない」
首をふる
に、ほっと胸をなでおろす。
「じゃ、誰が好きなんだっつーの」
調子に乗ってもう一歩ふみだす。調子にのりすぎだ。ただ、でも、知りたいという好奇心には勝てなくて。

困った様な、情けないような顔で、が笑った。

「…私が好きなの、は」

ゴクリ。

「えっと、―――――」

 

その時、突然やつは現われた。まるで何の前触れもなく。

 

 

「……………!」

「三上!?」

「…!あ、あしが、あしがシビレッ…!があああああ……!」

耐え切れずに廊下でのた打ち回る。近くの部屋のドアが勢いよく開き、担任が顔をだす。うるさい!とのカミナリがおちる。また怒られる。そして笑われる。調子に乗りすぎたのが悪かった。謝る。だから、俺のことを好きだといってくれ!

自意識過剰だ。救いようがない。

そしてこの痺れも、救いようがない。

「ていうかさ、真面目に正座してるところが…ばかじゃないの」

―――――うん、救いようがない。

 

 

足の痺れはすぐに治った。
だけど変わりに、どこかが痺れているような感覚は、次の日もまた次の日も、ずっと続いた。

 

 

こころのゆらゆらは、わらないまま。