| 菜の花 と おんなのこ 20040406 |
ザワザワと、菜の花が風にそよぐ音が心地いい。
「なんだ、じゃあおまえ別に園芸部とか委員とかそういうわけじゃねーの?」
「うん、違うんですよ。ただ、ここに打ち捨てられた花壇を私がみつけて、それで先生にここになんか植えたらどうですか?っていいに言ったら、君が植えたらどうだね、って言われて。今にいたるわけです」
「まあ、体よくおしつけられたってやつだな」
「あーそれいっちゃいけませんよ、私おちこみます」
「ああ、落ち込めー落ち込め―どんどん落ち込め―」
「うわ、冷たいひとー」
あの、変な人(ぶんぶんぶん♪おたくのひと。そして私はこの歌の題名をしらなかったりする)は、いっこうえの学年の三上先輩だということを知るのに、そう長くはかからなかった。なぜって、意識するようになって初めてしったのだけれど、この学校で先輩のこと知らない人はほとんどいないってほどの、有名人だったのだ。まあ、お恥ずかしいながら、この間までの私はその”ほとんど”の中のひとりだったのですが・・・。
三上先輩は、サッカー部。サッカーをやってる三上先輩は、すごく、かっこいい。普段でも、結構かっこいい。だから、ファンがいっぱいいる。頭は、いいんじゃないかと思う。もっぱら理数系らしいけれど。そして、当然もてる。けれど、まあ、ここからが問題なんだけれど、
彼女が、いる。
綺麗で優しい、私が男だったらこんな人と付き合いたいなあ、っていう素敵なひと。
そうゆう情報をたくさん教えてくれた藤代君いわく、三上先輩とその彼女は、「ばかップルてやつ。あー俺も彼女ほしー!」だそうな。あ、後ろの台詞は別に関係なかったね。てゆか、藤代くんも十分もてるとおもうんだけどな。そうそう、藤代君ていうのは同級生で、馬鹿・・・仲間で妙な親近感をお互いもってるみたいで、仲良くしてくれる男の子。彼もサッカー部で、三上先輩とは仲が良いようです、って事をこないだ初めて知ったのです。なんか視界が広がる思いだなあ、なんて。
でも、良かった。すごく好きになってしまう前に、彼女がいるとわかって。藤代くんに感謝しなくちゃ。
あれから、あの衝撃の出会いから、なぜだか先輩はこの花壇にふらっとやってくるようになった。最初はやっぱり変な人だなあ、と思ってちょっと距離をおいてみたりした。けれど、先輩はまるで魔法使いのように、私のつくった壁をいとも簡単にとりはらって、気がついた時にはもう、私の心のすごい近いところまできていた。
けれど、先輩とこうゆうなんか不思議な関係になって、それで、心が揺らがない女の子なんているのだろうか?
そういうことを、きっと先輩は知らないんだ。こまる、それって立派な公害だよ。
文句を言いながらそのくせ、先輩がこなくなることを望んでいるわけではない、のだ。
その証拠に、菜の花が永遠に咲いていればいい、と今だって思ってる。
「なあ、菜の花の花言葉ってしってるか?」
「ううん」
「・・・・何わらってんだよ」
「だって、先輩、突然花言葉なんて。・・・・意外とロマンチストなんですね」
「うっせ、こら、笑うなっつってんだろ」
「はははは!だって、先輩、照れてる・・・!」
「、おまえいい度胸してんじゃねえか、俺をおちょくるたぁ」
「ぎゃはは、ギブギブ!ぎゃー!ごめんなさーい!」
クールなイメージとは違って、思いのほか人間味に溢れている(そして少し乙女チックな)三上先輩を知れば知るほど、なんだか私だけしか知らないようなきがして、独り占めしてる気がして、もっともっとと欲がでる。
いけないいけない、それはいけない。
「菜の花の花言葉は、快活っつーんだってよ」
「へええ、先輩よくそんなことしってますね、・・・意外とロマンチ」
「殺されたいか、ん?」
「め、めっそうもない」
「俺じゃねーよ、たま子がいってたんだ」
「・・・たま子?」
「あ、えーと、俺の彼女・・・みたいなもん」
「ふうん」
初めて先輩の口から直接聞いた”彼女”という言葉に、その響きのやわらかさに、開けたくもない玉手箱を無理やりあけさせられた気分になる。開いてその後は・・・・・あまり、考えたくない。
「・・・で、そんな話をあいつから聞いた後に、あそこの廊下あるいてたんだ。そしたらお前の歌声がきこえるじゃねーか」
「美声に誘われた、ってわけですね」
「ああ、ジャイアン並の美声にな」
「これでも私、音楽はクラスで一番の成績だったんですよ?」
「だった、ね、いつの話だよ?」
「小学校1年生・・・」
「・・・それはまた随分昔だな・・・」
「ええ、まあ・・・・」
「今は音楽も、ボロボロってやつか」
「ま、まさか〜・・・」
「ばーか、俺は知ってんだよ。あのバカ代と成績あらそってんだろ?」
「あ、あいつ〜・・・・」
藤代くん、いい奴なのはいいけれど変な入れ知恵しないでくれないかなあ。・・・事実なところがなんともいえないんだけど、さ。
「それで、まあ、そのジャイアン並の美声にひかれて、ここにきたんだよ。そしたらお前が、菜の花に埋もれて馬鹿みたいに陽気に歌をうたってるじゃねーか、なんだかしらねーけど、こいつだ!て俺は思ったんだ」
「何を、思ったんですか」
「さあ、それがわかんねえんだよ。でも、菜の花の花言葉は快活、って頭の中で思ってた時に菜の花とお前が現われて、なんかこう、しっくりきたんだ」
「つまり、私は、菜の花むすめということですね」
「そうだな、って答えになってねえよアホ」
「え〜、そうかなあ?」
このさい、菜の花むすめでも、友人Aでもいい。先輩の人生の中に、私の名前が登場人物として加えられていれば、いい。台詞が一行でもあれば、それでいいよ、と思う。
それは私の、謙虚な気持ち。
けれどどこかに、そうじゃない私もいる。そうじゃない私は、がんばって押さえつけていないと暴れだしそうだから、胸が高まるたび、はらはらしてどうしよう、と思う。
「そーだ、たま子が、お前を見てえんだってさ」
「み・・・・みせものですか、私は?」
たま子・・・さん、に私のことを話してるんだ。心が、ズンと2メートルくらい深く沈んだ。
てっきり、三上先輩が私とここで会ってることは秘密にしてある、と思い込んでいたから。
でもたしかに良く考えてみれば、そんな仲睦まじい間がらなら、隠し事なんて、あるはずがないのだ。
「でも、みせねーよ。俺のもんだから」
「・・・・減りませんよ、みせたって」
「減る、減るにきまってる」
飛び上がるほど嬉しいのに、思わずにんまりしてしまうほど嬉しいのに、私はがんばってなんともないふり。
何気ない先輩の言葉に、私は一喜一憂。
友人Aでいい、なんていうのは、ただの奇麗ごとです。そんなこと、実はこれっぽっちしか考えていないのです。
好きだ―、好きだ―、毎日先輩に会うたびに、レベルがあがる「好きだー」という私のきもち。
溜まりすぎて溢れ出てはこないだろうか。
体の中に蓄積されている花粉が溢れ出したら花粉症になるように、私の好きだ―も溢れ出したら、私は恋わずらいか何かになってしまうんじゃないだろうか。
「告っちゃえば?」
藤代くんが、いたずらっぽく笑って、いった。
「あのねえ、私が入り込む隙間があると思う?」
「あー、確かにない」
さらりと肯定されて、その爽やかさに、私は思わず笑ってしまった。
「なに?」
「いやね、藤代くんすきだなあ、と思って」
「何、もう心がわり?俺は全然いいけどさー」
「いいんだー?あはは!でもありがと、なんかすっきりした。私、がんばるわ」
書き終えた日誌を、パタリと閉じた。
今は日直の私と藤代くんがいるだけ、放課後の教室はガランとしていて、どこか寂しい。
「はい、ペンありがと」
「ん。ね、で、どうすんの?」
興味しんしんな藤代くんに、私は秘密にしようにもできなくなってしまう。
「・・・藤代くんだったらどうする?」
「俺?俺だったら、告らないでおく」
「うわ、即答だし。さっき、私に告っちゃえば?って言ったの誰だっけ・・・」
「それとこれとは話がべつー。で、は?」
「ん、」
私も、一緒。
考えたの。幸せになる確率を。
告白しなかったら、菜の花が枯れても、また次の花が咲けば先輩は多分私の花壇にやってくる。
けれど告白したら、それもなくなってしまうかもしれない。
100%確実なこと、それは私がふられること。
ずるいかもしれないけど、安全な方をえらぶよ、だって恋愛にリスクは必要ないと思うの。
それにね、ふと思うんだ。
もし先輩がこの先、たま子さんと別れても、私が側にいたなら、私にチャンスは来るんじゃないか、って。
結婚するまでだったら、想いつづけてればチャンスはあるんじゃいか、って。
そのために、種をまいておこうと思うの。
たくさんの、菜の花を咲かせるために。快活、であろうと思うの。
なかなか泣ける話だと思わない?
「うん、泣ける」
藤代くんが、笑った。私は、安心して少しだけ涙ぐんだ。
「先輩!」
「・・・なんだよ、突然」
「先輩、のこと好きですか?」
「おー、好きだぜーどうしたー」
「何番目に!」
「んー・・・・・三番?」
「銅メダルかあ。びみょー!一番はたま子さんでしょ、二番は・・・誰ですか?」
「・・・・・いいだろ、誰でも」
「・・・なんでですか、いいじゃないですか教えてくれてもー。・・・あ。もしかしておかあさ」
「はいはいはい、それ以上いうと殺すよー殺しちゃうよー」
「あ、図星!?図星なんじゃあないですか〜〜?わー!先輩マザコンなんだあ〜マザ・・・・ふがっ・・・」
「てめぇ、それ以上いったらどうなるかわかってるんだろうなあ?」
マザコンな三上先輩も、大好きです(えへ)
だから、三上先輩、しばらく私に脇役の座を暖めさせてくださいね、助演女優賞を、とらせてくださいね。
主演の座を、射止めるその日まで。
私はわたしの頭で可能な限り、したたかに生きて行こうとおもいますので。