| 送 る ひ と、 ら れ る ひ と 20040411 |
私はいつも、いつだって、誰よりも早くその場を脱したいと、そう願っている。
「ってさ、付き合いわるくねえ?」
たまたま(というか無理矢理)なってしまった副学級委員。そうでもなければこうやって放課後、このあまり得意な部類ではない三上という人間と、二人で仲良く居残って担任から任せられた雑用をすることもなかったのだ。
私はプリントから目を上げずに、適当に返事をした。
「そう?」
「ああ、っつーか自覚ねえの?わざとじゃねえの?」
「・・・・わざとだよ」
適当に流そう、と思ってもつい流せなくなってしまうのは、この人の話術だろうか、なんだろうか。
多分、耐え切れずに、私が目をあげてしまったせいなんだとは思う。
目があってしまうと、私は嘘がつけなくなる。
「やっぱり」
三上が目を凝らさないとわからないほど、小さく笑った。
「なに、やっぱりって」
「いや、だってお前、いつもなんかすごくつらそうに帰るから。みんなと遊んでても、さ」
「・・・・・え?」
「帰るのがつらいなら、もっといればいいじゃねえか、って思うわけだ。でも、なんか理由があるんだろ?なんか、わかる気がする。うまく説明できねえけど」
三上が、そっぽを向きながら言った。
変なところで照れる人だ、照れるぐらいなら言わなければいいのに。
三上のその態度を見て、私は可笑しくなった。そして、まあこの人になら、言ってみてもいいかな、とそう思った。
なんにせよ、隠すようなことではないのだけれど。
主義主張の問題であって。
「じゃあ聞くけど、三上だったら、送る人と送られる人どっちがいい?」
「・・・・は?」
「ごめん、質問がわるかったかな。あのね、もし誰かと別れなきゃいけないときがあったとしたら、自分がその誰かに見送られるか、自分がその誰かを見送るか、どっちがいい?」
私の問いに、三上は「ちょっとまって」と言ってから、真剣に考えはじめた。
この人のこうゆう変なところで真面目なところが、学級委員長らしいというか、好意がもてる部分ではある。
「・・・送る人、だな」
「なんで」
「なんで?んー、できるならば、あんま現状壊したくない、っつーか、帰る場所を作っておいてやりたい、っつーか・・・何いってんだ俺、意味わかんねえ・・・まあ、なんとなく、なかんじ」
思わず、その三上の答えに顔が緩んでしまう。
予想通り、というかなんというか。
「・・・何笑ってんだよ、」
「だって、三上ならそうくると思ったから」
あはは、と声に出して笑ったら、三上は少しだけ居心地がわるそうだった。
「・・・なんだよ、お前はどうなんだよ」
「私は、逆。絶対、逆」
「見送られる人?なんでだよ」
「だってさ」
見送る人の世界は、見送られる人がいなくなった後も、同じようにまわるわけじゃない。
ただ、見送られる人がいなくなるだけで。
けど見送られる人の世界は、今までとは絶対に違う。少なくとも、同じようにはまわらないでしょう。
だから、見送られる人がその後の見送る人の世界を想像できても、
見送る人が見送られる人のその後の世界を想像する事はできないと思うの。
「私はそれが、すごくいやだと思う。それと、」
誰かを見送った後の虚無感というか、なんともいえない寂しさが、
「すごくいやだと思う」
私が一息にそう言い終えた後、一拍おいて、三上がいった。
「だったら、俺は見送る人の世界で、見送られた自分の存在がやがて薄くなっていくのが嫌だ」
私は黙った。
三上も黙った。
急に静かになった教室を飛び越えて、校庭からはしゃいだ声がかすかに聞こえてきた。
私は黙ったまま、作業を続けた。
三上も続けた。
・・・・・・・☆・・・・・・・・☆・・・☆・・・・・・・・・・・☆・・・・・・・☆・・・・・・・・☆・・・☆・・・・・・・・・・・☆
「ぅし、終わりー。は?」
「・・・うん、ちょうど」
「貸して・・・・うし、職員室行って渡して帰るぞ」
三上の手にプリントの束をバサリと手渡してから、私も立ち上がった。鞄をもって、教室の出口に向かう三上の背中を追う。
「っつーか、あれじゃね?」
「へ?・・・・あれ?」
突然三上が振り返って意味のわからない事を言い出したから、私は眉をひそめた。
「見送るとか見送られるのとかがいやなら、一緒にいけばいいんじゃねーの?」
「どこまでも、さ」
眉をひそめたまま、私は笑った。確かに、と言って笑った。