| スウィート・メモリー 20040401 |
俺は、甘いものが大嫌いだ。
ショートケーキ、シュークリーム、プリン、パフェ、クッキー、エクレア、ティラミス、ミルフィーユ、チョコレートケーキ、パイ、ドーナツ、デニッシュ、タルト、ガトーショコラ、ババロア、ムース、マシュマロ、クレープ・・・・・・・・・
「うわあ、ヨダレがでちゃう!」
「そうだろう。俺の手にかかればこんなものさ」
「渋沢くん、なんでもできるのね、ステキ・・・!」
「・・・・」
「オイ・・・なんのつもりだ?」
部屋中に充満する甘い香りで目がさめたら、さめてみたら・・・・・・・。
ショートケーキ、シュークリーム、プリン、パフェ、クッキー、エクレア、ティラミス、ミルフィーユ、チョコレートケーキ、パイ、ドーナツ、デニッシュ、タルト、ガトーショコラ、ババロア、ムース、マシュマロ、クレープ・・・・・・・・・
・・・・部屋中が、甘いものに占領されていた。
このシチュエーションはなんかすごく嫌な予感がするんだ。窓の外は見上げるほどの青空で、遠くからかすかな鳥の声がきこえる、のどかな休日の午後。そんな平和な雰囲気に逆らって、何か禍々しいものをかんじるんだ。
俺の第六感はなかなかあなどれないんだぞ。なんせ昨日、『シックスセンス』を見たからな。・・・・関係ないけどな。
俺の言葉に、渋沢とが嬉々とした顔でこちらを振り返った、気がした。
見えないからわかんねーけど。だって、所狭しと並べられたお菓子、見るだけで吐きそうになりそうだ。
「あきらくん、おはよう!良いお目覚めですか?」
「いいわけあるか・・・!なんだよこれっ!撤去しろ、今すぐ撤去しろ・・・!そしてお前もでていけ・・・・!」
「はい、紅茶をどうぞ」
「おい、無視すんな・・・・・うわあ!何だよこの紅茶、ドロドロしてるぞ・・・!」
「あ、別に体に悪いものじゃないから、大丈夫。砂糖しか入ってない」
「砂糖もとりすぎたら体に悪いんだよアホかー!のめるかー!」
「まあまあ、落ち着いておちついて。興奮は体に毒だから」
「砂糖の方が体に毒だー!・・・いい、お前が出てかないなら俺が出て行く!どけ!」
ここは強行突破だ、と強引にを押しのけてベッドから立ち上がろうとして、一瞬、固まってしまった。
なぜって、
床の上には、ケーキ、ケーキ、ケーキ、ケーキの山。足の踏み場なんてものは一見みあたらない程、所せましとケーキが並べられているから。
・・・・・ここは、お菓子の家か・・・・!?
ヘンデルとグレーテルが、一瞬頭をよぎった。
「三上」
背後で自分を呼ぶ低い声に、思わずビクリとした。
・・・・忘れてた、こいつがいたの・・・・・。
俺は立ち上がったものの逃げ去るタイミングを逸して、こわごわと振り返った。・・・・・笑顔かよ・・・・。ケーキを片手に、満面の笑みでこちらに微笑みかけてくる渋沢と目があって、今度はゾクリとした。
「このお菓子、俺が作ったんだ。すごいだろう?」
(踏み潰したりなんかしたらどうなるかわかってるんだろうな?)
「店で売れそうだろう、はっはっは」
(オトシマエは高くつくぞ)
「う・・・・」
言下の意味を悟ってしまって、俺は二の句がつげなくなる。
・・・・だいたい、なんで俺は寝起きそうそう、脅迫されているんだ!?理不尽にも程がないか!?
「というわけで、」
「どういうわけだよ!?意味わかんねーよ!」
「あ。ごめんね、説明してなかったね。今日は、亮に甘いものを克服させてあげようというプロジェクト第1弾を実行しているわけなのよ」
「・・・・はっ!?第一弾って・・・二弾ももしかしてあるのか・・・?っつーか、頼んでねーよそんなこと・・・・!」
「いやいや、これはボランティアだから。ボランティアは頼まれなくてもやるの。私がそう決めたから問題ないの」
「お前は独裁者かー!」
「ちなみにね、このプロジェクトのゴールは来年の亮の誕生日に、ケーキを食べれるようにすること!どう?ときめくでしょう?」
「ときめかねーーよっ・・・!」
「まあまあ、プロジェクトWは始動してしまったわけですから」
「なんのWだよ・・・・」
「あ、えーーと・・・・ウエディングのW・・・」
「は・・・!?」
「あ、あのう、最終ゴールは、ウエディングケーキなんで・・・・」
「・・・・・殺すぞ」
「望むところだ!」
は突然そう叫んだかと思うと、側にあったケーキをぐわしっ、と掴んで・・・・ヒィィィィ・・・!
「だ、だいたいお前だってピーマン嫌いだろう・・・・!」
「ピーマンはなくても結婚はできるのよう!」
そらそーだ・・・・!じゃなくて・・・・
「ケーキがなくてもできるだろー!」
目の前に迫り来るケーキに、俺は生きた心地がしない。思わず、力いっぱい、はねのけてしまった。
その勢いでの手から離れたケーキは、放物線を描いて少し離れた所にたっていた渋沢の足元へ、きれいに、着地した。・・・べシャッ。
う・・・・・。
渋沢の笑顔が凍りついた、気がした。
「三上」
ヒィィィィ・・・!
「まった、まった、すまん、ケーキを粗末にしたことは謝る、だけど俺だって、ケーキを食べたくなくて食べないわけじゃないんだ、食べれないから食べないんだ、わかるだろう・・・・!?」
「わからん」
「わかった、じゃあ、とりあえず、俺の話を、聞け、な?なんで甘いものが嫌いなのか、な?」
ケーキをもって今にもつかみかかってきそうな渋沢を前に、俺は、思わず、言う予定ではなかったことを口走ってしまっていた。
「・・・・・いいだろう」
とりあえず渋沢の暴走をとめてホッとしたのも束の間、昔のあまり掘り返したくない話題を自分で掘り返してしまったことに対して、自己嫌悪に浸る。・・・ああ、アホだ、俺はアホだ・・・。
けれど今さらなかったことにもできそうにない。
心密かに覚悟を決めて、俺は重い口を開いた。
「あれはちょうど、俺が5歳になったばかりの頃だった―――――」
その頃、俺はまだ甘いものが嫌いじゃなかった。というか、むしろ好きだった。実際、俺の家族は元々甘いものが好きな一家で、よく食わされていたんだ。けど、ある事件がきっかけで俺は甘いものなどこの世の中から消え去ってしまえ、と思うようになった。
そのある事件、は、車で1時間くらいでいける、祖父ちゃんの家に気軽な気分で遊びに行ったことから起こったんだ。俺は、この間誕生日をむかえたばかりで、何かプレゼントでももらえるだろうかという、淡い期待を胸に抱いていた。実はこの祖父ちゃんというのが曲者で、いかつい顔をしている割に、甘いものが大好きで、少し、というか大分変わった人だった。俺にはたまに、理解できないような思考回路を持っていた人間だった。
「・・・そう、お前みたいにな」
「ケーキ食べる?」
「・・・遠慮シトキマス」
そして、その時もあれだ、祖父ちゃんの家についたら、庭に、ほんの数週間前まではなかった、でっけー物体が出現していた。出迎えた祖父ちゃんに、これはなに?と聞いたら、ホッホッホと笑いながら、「お釜じゃよ」と答えた。
「おかま!?」
「ニューハーフじゃねえからな」
「・・・わ、わかってるよ」
は!?釜!?じーちゃん、陶芸でもはじめたの?と質問攻めの俺に、じーちゃんはその時はホッホッホと笑ってばかりで答えなかった。
――――――ところが次の日。
じーちゃんに呼ばれて庭に出てみたら(じーちゃん家はすごいでかい、ちなみに)、なんと、なんと・・・・・・・
家が建ってるじゃないか・・・・・!
「・・・家?もしかして誕生日プレゼント?」
「ああ、だけど・・・・何でできてたと思う?」
「え、もしかして・・・・・」
「あたり、お菓子の家だったんだよ」
「ええッ・・・!すごい!」
そう、その時の俺もまだ小さかったし甘いものは好きだったから、絵本に出てくる様なお菓子の家が目の前に出現して、しかも自分の物なわけだから、そりゃあ喜んだぜ。あの釜も、大きなスポンジケーキを焼くためにじーちゃんが買ったものだってわかった時も、そんなにまでして俺にプレゼントを・・・!と感動したもんだ。それで、今考えれば俺も馬鹿だったと思うんだけどな、今夜はこのお菓子の家で寝たいと言い張ったんだ。それで、まあ反対する理由はないし、という事で俺はその家で一泊することになった。
「すごい、ステキ・・・!」
「聞けって、その先があるんだよ」
それで俺はそのお菓子の家で、ふかふかのスポンジケーキと甘い匂いの充満する、そう、この部屋みたいな部屋で、幸せな眠りについた。もちろん、お菓子をつまみ食いしてな。
――――――ところが、その夜、地震がおきたんだ。
結構大きな地震だった。なんせ、その揺れで目がさめたからな。目がさめて、机の下に隠れるんだ・・・!と思ってから、気付いた。ここはお菓子の家だった、と。それを思い出した時、今までとは違う種類の揺れが、俺を襲った。明らかに、地震の揺れじゃない揺れ・・・・。
そう、突如として、お菓子の家の壁の一面が崩れて、俺目掛けて、家が、倒れてきたんだ・・・・!
逃げるとか、よけるとか、そういう暇はなかった。なんせ、一瞬だったから。
突然おおいかぶさってきたスポンジケーキに、俺はあっという間につぶされた。
知ってたか?スポンジケーキ、あんだけの量が集まると人ひとりつぶれるくらい重いんだぜ?
死ぬ――――――
と本気で思ったのは、後にも先にあの時だけだ。
完璧にケーキに埋もれてしまった俺は、無我夢中で、周辺のケーキを食べまくった。
「・・・なんで?」
「覆い被さってるケーキが全部なくなったら助かると思ったんだよ・・・・!」
けれど、食べても食べてもケーキはなくならない。段々、ケーキの圧迫と、甘い匂いに息が苦しくなってきていた。
そして、そのまま、俺は意識を失った。
「気付いた時は、病院のベッドの上だった・・・・おい!!笑うな・・・!」
「だ、だ、って、ケーキに押しつぶされたなんて、は、は、あははははは!!」
「・・・・・・三上、苦労したんだな」
「か、かわいそう、あはは、ゴメンネ、今までつらいことさせて」
「ああ、つらい過去を思い出させて悪かった・・・・ぷ」
「わらうなーーーーーー!そしてそんな同情の目で俺をみるなーーーー!」
俺は、甘いものが大嫌いだ!