「明日は、はんこを忘れないように!」

昨日、担任(公民の先生)がやけにはりきってそう言っていたのを思い出して、わざわざ一旦履いた靴を脱ぎ捨ててまで取りに戻ったんだ。

……それが、こんなくだらない理由だったなんて。

回ってきたプリントを手にとって、思わずがっくりと肩をおとしてしまう。

「将来のために、予行練習だと思ってそのプリントをうめてください。相手は誰でもいいですよー」

嬉しそうだ、なんであいつ(担任)はあんなにうれしそうなんだ。てか、予行練習って…!こうゆうのを書きなれた人っていうのはどうなんですか、そう何度も書いても良いもんなんですか、どーなんですか世間一般的に…!

なんて心の中で葛藤しながら、プリントの上部に目を落として、心の中で改めてそれを読んでみる。

こ・ん・い・ん・と・ど・け

…いいや、俺一馬と結婚しよう。さなだかずこちゃん。いいね、そしてもちろん名字は俺の名字。わかなかずこちゃん。うん、幸せな結婚生活がおくれそう。うん、俺って天才。

「あ、ちなみにこのクラスにいる人同士じゃないとだめですよー」

…あ、そう。

仕方ねえなあ、と思って周りをみまわしてみたら、周りはすでにカップルだらけ…!(いや、正確には夫婦だらけ、なんだけど)。しまった、出遅れた。きっと30過ぎて結婚できないってこんな気持ちなんだ、せつな過ぎる。てか、泣きそう…!俺には相手がいないんです、せんせい…!

「わーかーなーくん」

わ!後ろから声がかかって、振り返ったらが婚姻届をヒラヒラさせて立ってた。

「結婚…しよ?」

「え…!!」

「わ、若菜くんどぎまぎしてる、おっかしー!」

「ば、ばか、どぎまぎなんてしてねーよ、つーかお前相手いねーの?」

「お互いさまー」

「うわー、寂しい仲間かよ!じゃ、俺たちお見合い結婚ということで」

「いやだ、私は恋愛結婚するの!」

「はいはい、じゃあ恋愛結婚ね。名前書いて。住所書いて。はんこおして」

「何それ、なんでそんなに事務的なの…!」

「…だってそうだろ」

「違う!予行練習なんだから、こう、もっと、期待と不安に満ち溢れたかんじでペンを走らせなきゃ!」

「どきどき、明日からは新婚生活が始まるんだわ!…はい、はんこおして」

「もー!違うよ、私離婚する…!」

「むり」

「なんと…!」

「だってほら、俺ら結婚してない」

「あ、なーるほどー…とうしば?」

「なんで語尾が疑問系なのかとか、そのネタは古すぎるとか、つっこまないからはんこ押して」

「わ、わかなくんやっさしー☆て…だーかーらー、もっとこう、雰囲気だそうよ!」

「俺は本番もこんな調子でいくから、俺と結婚したかったら我慢しろー」

「わ…!本当に結婚してくれるんですか…?」

「わ、さんどぎまぎしてるー!おっかしー!」

「ムッ。仕返しされた気分」

「気分、じゃなくて多分されたんだと思う」

「じゃあいいよ、若菜くんが私の名字になるのならば許してあげる。結人。どう?ちょっといい男なかんじの名前じゃない!?ねえ!」

「却下」

「ええ!なんですか、それ。即答ですか…!」

「明らかに俺の名字のがかっこいいだろ。若菜。わ、ちょっと惚れた…!」

「やだ。やだやだやだやだ!」

「お前なー、婚姻届出すときにだだこねたら恥かしいだろ」

「そういう問題じゃ…!」

「そういう問題。はい、はんこおして」

「ひどっ…!ていうかなんで勝手に書いてるの!なんて横暴な夫…!」

「はい、まいどありー!やった!終了ー!」

「まいどありって…!私の意見すべて無視ですか…!」

「ほら、若菜、婚姻届を提出しにいくぞー」

「あ、あなたまって〜!」

「…やめて、それ」

「だって名実ともに夫婦になるわけですし!」

「それ、勘違い…!」

「これから一緒の道を歩くわけですし!」

「…おーい、人の話きいてる?」

「今夜は優しくしてね…ダーリン…」

「……」

「わ!うわっ!破いてるよ、この人!婚姻とどけ破いてるよ!みんなー!この人ひどいよー!」

 

お わ り