真夏のぬるりとした真夜中の街を歩きながら、例えばこんなものにまで欲情してしまう自分を心底死んでしまえと思う。
(変態とフェチはどう違うんだ…?)
ブンブンとうるさく耳元で鳴く蚊を首を振って追い払って、前を歩く藤代の白いTシャツを直視した。手に持ったコンビニ袋がガサガサと無遠慮に揺れる。そして、ああ、暑いからだ、あまりに暑すぎるから、変なことを考えてしまうんだ。とひとり納得しつつ足音を重ねる。
ペタン ペタン ペタン ペタン
さっきまで気も狂わんばかりに鳴いていた蝉の声が、不思議とぱったりやんでいた。ただ代わって耳に吸い付くその音、は、
ペタン ペタン ペタン ペタン
ゴクリ、と生唾を飲み込んだ。意識してTシャツの背中に繋ぎとめていた視線は、いつのまにか下へ、下へ、まるで重力に従うように下向していく。ピタリ、と止まった視線のその先は、地面…ではなくて、その上約1センチ前後。ビーチサンダルの厚み。
ペタン ペタン ペタン ペタン
藤代の足が、地面を蹴るその度に音が辺りに響き渡る。剥き出しのかかとが、絶え間なく上下する。時折見えるつま先の指が、前に踏み出す度にぎゅっと大地を踏みしめる。釘付けになるのは、そのかかと。
(――――たまん、ねえ)
供給過剰で口の中に溜まった唾を、ベロリと嘗め回した。ポケットの中で握り締めた掌が、気持ち悪いばかりに湿っている。ズルズルと引きずるように動かすサンダルが地面をかするのを目撃するその度、痛そうだと思う。と、同時にゾクゾクとした感覚が体を走って、藤代の、あの、意外に滑らかなかかとに触れたいという欲望が、押さえ切れないままに身体を駆け抜ける。ゆるりと撫でたあの感触、かかとの内側のガサガサして指にひっかかるあの一ヶ所の絶望感。まとわりつくように指の1本1本を舐めつくして。小指と薬指の根元を吸い付くように舐めた時の、あの、藤代の、――――カオ。
「先輩?」
生ぬるい、そして湿気を含んだ息苦しい夜の空気が、ゆるりと動いて藤代が振り返った。その素早さにうっかり視線をあげるタイミングを失って、さらに口から出たのは情けない声。
「…んあ?」
湿りすぎていると思っていた口内は、いつのまにかカラカラで。水がほしい、と藤代の青いビーチサンダルを見ながら思う。「何やってんスか、」と重ねた藤代の声に、上の空で「なんでもねえ」と言い返した。
意識はいまだ、かかとの上。
その時歩き出した、と思った藤代が小さく2歩、後退した。釘付けだった視線の間に、しゃがみこんだ藤代の顔が入り込む。
「ねえ、欲情してたでしょう」
語尾はあがっているくせに断定以外の何者でもない口調で、覗き込んだ藤代が笑った。
「……してねえ、よ」
思わず否定しまった自分に、その答えを待っていたとでもいうふうに藤代がくっくっく、と可笑しそうに喉を鳴らす。
「だって、視線かんじたもん。イヤラシイ視線」
「……」
「先輩の変態趣味に付き合えるのは俺くらいですから、大丈夫っすよ」
(変態…、じゃねえ、フェチだっつの)
ほんとう、心底、死んでしまえと思う。そうして真夏の夜の闇の中に、うずもれてしまえばいい。
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おまえが死んでしまえばいいと思ったひと!は〜い。(…) でも三上はすっごい変なフェチとかだといいと思うんだよね〜。マニアックなフェチであればあるほどいいと思うんだよね〜。理解しがたいかんじの!たとえば……、え〜と、…常識人のわたしには想像できないようなやつ?という風に逃げてみる。スッタッタ