3.餅つき
ぴったり
なんというか、それは多分偶然以外の何ものでもなかったのだ。
暮れも差し迫る12月も半ば。武蔵森学園は、まるでここだけあと2、3日のうちに正月を迎えようかとする程の忙しさに見舞われている。もちろんそれは例年のこと、であるのだが。というのも武蔵森は、あと数日で冬休みを迎える。冬休みを迎えるという事はそれすなわちほとんど全員が帰宅するということで、その前に1年間の垢を落としておこう、と考えるのは、まあなんというか、日本人の思考として当然の帰結なのだろう。ともかくそういう事情で武蔵森の各寮は、一斉にこの時期になると慌しく大掃除を始める。これがお祭騒ぎの様で、さらにこれから始まる冬休みへの期待もあってか、校内は妙に浮ついた雰囲気になる。
そしていつからか、”大掃除”はただの名目になっていて、それよりもむしろ今年を締めくくる最大のイベント(お祭騒ぎ)という意味合いが濃くなっていた。事実、みんな雑巾や箒やらの掃除道具を手に走り回っているにもかかわらず、”大掃除”が終わった後の武蔵森はきれいになっているどころか逆に汚くなっていたりするのだ。
現実を反映して説明し直すならば、大掃除というよりむしろ大騒ぎ、と言った方が正しい。
そういう私も例にもれず、寮の玄関で友達と箒をもってちゃんばらをしたりして、一向に綺麗になる気配のない玄関の床の上でふざけあっていた。
遠くから、校内放送の音が微かに聞こえてくる。どこかの寮が何か出し物をしているのだろう、怒鳴り声やざわめきがそれに重なる。うちの寮では何もやらないけれど、寮によってはこのお祭騒ぎに乗じて出し物―――餅つきとかカラオケ大会とか――――をやったりもするのだ。結局、そういうもののせいでお祭騒ぎが助長されているのだ。
顔をあげて友達に話し掛けようと口を開いたちょうどその時、バタバタと騒がしい足音がしたかと思うと、数人の女の子達が玄関につながる階段を駆け下りてきた。私にとっては後輩にあたるそのこ達は、軽く会釈をすると目の前を猛スピードで駆け抜けていった。思わず唖然として駆け去ってゆく女の子たちの背中を凝視していたら、肩をポンとたたかれて、私はふりかえった。
「先輩、どっかいかないんですか?」
走り去っていった女の子達と同学年の、くりっとした黒目がかわいい後輩が、楽しそうに笑っていた。
『どっかいかない』とは要するに、他の寮でやっている出し物のことをさしているんだろう、と私は解釈して一応笑い返す。
「うーん、まあね。…あの子達、なに、どうしたの?」
女の子達が消えた方向を指差して、私は首をかしげた。
「なんか野球部で、ねるとんやってるとか」
「へえ…で、いかないの?」
そんなものまで…私は半ばあきれながら、目の前の後輩に尋ねる。
「あ、私は…」
突然口ごもったかとおもうと、そのまま下を向いてしまった後輩に私は多少狼狽した。
「あ、ごめ、気にしないで…」
わけのわからない言い訳をしかけて、私ははっとする。
数日前、彼氏ができたと言って喜んでいたのはこの娘じゃなかっただろうか。後輩のくせに生意気な、と思いながら、まあこんなにかわいいんだし男だって放っておくまいな、と妙に納得した記憶がある。
「…あ、もしかして彼氏?」
俯いていた後輩が、私の言葉にぱっと顔をあげる。
「そうなんです、あの…」
言いにくそうに言葉を濁すから、優しい私はつい満面の笑顔で助け舟を出してしまう。
「なに、どうしたの?」
後輩が、意を決したように口を開いた。
「あの、その、付き合ってる人が…サッカー部なんですけど、今餅つきやってるみたいで…」
そこまで言って息をついた後輩をよそに、私は笑ってしまった。意図が読めてしまって。
「ついてきて、って?」
びっくりした目と視線があう。
ここまで聞いてしまって断れる気もしない。それに、大勢の知らない人がいる場所にひとりで行くのはちょっと気がひけるものだ、と私も彼女のきもちは少しわかってしまうのだ。
「…いいよ、仕方ないなあ」
「え、ほんとですか?」
パーッと笑顔になってしきりに礼を言う後輩に、私は照れくさくなって話題をかえた。
「…ていうか、掃除おわったの?」
「終わりました!」
「…私終わってないんだけど」
「大丈夫ですよ、すっごいキレイですもん」
…こういう無邪気なところが、ついかまいたくなってしまうのだ。
私は豪快に声をあげて笑うと、それを返事のかわりにして箒をその場に放り投げた。
サッカー部が住んでいるという松葉寮までは、一旦外に出てからぐるっと学校を半分くらい回らなければならなかった。
そうやってやっとたどり着いた松葉寮は、たいそうなご盛況だった。
そういえば、女の子達のウワサによるとサッカー部は粒ぞろいだという話だったっけ。
今更ながらに私は思い出しながら、後輩と連れ立って松葉寮の門をくぐった。
「彼氏、みつかりそう?」
「うーん…」
せっかく来た事だし、この娘を無事引き渡してから餅のひとつでももらって帰ろう。
私は人ゴミの中で、周りを見回した。
「あ、いた!おーい!」
横で同じようにキョロキョロしていた後輩が、突然声をあげた。手を一杯に振っている。視線の先をなにげなく追ってみると、男の子がひとり、こちらにやってくるのが見えて私は目をこらした。
「竹巳くん!来ちゃった」
やがて男の子が近づいてきて、二人が目を合わせて恥かしそうに笑い合うのを私は目撃してしまう。
なんだか甘酸っぱい気持ちになりながら、なんとなく見てはいけない気がして目をそらした。
「先輩、あの…笠井竹巳くん、です」
紹介されて、私は視線を戻す。
笠井くん、とやらが軽く会釈をした。
私も不自然な笑みを顔にはりつかせながら会釈を返した。
初めて会う人はどうも苦手だ。
できるだけすみやかにこの場を離脱しよう、そう思って「じゃあ、」と口を開こうとして、けれど寸でのところで突然かかった強引な声にさえぎられてしまった。
「おい、笠井」
私は遮られたことにちょっとむっとして顔をあげた。
呼ばれた当人も、声のした方に顔をむける。
けれど笠井くんが第一声を発するその前に、
私は顔をあげたその姿勢のまま
―――――――――― 硬直してしまった。
それとほぼ同時に私の記憶が、頭の中でまるで古いビデオデッキみたいに大きな音をたてて急速にまき戻される。
期末テスト、成績表、最悪の点数、 との会話、風、舞い上がる成績表、木、………そして、見上げる男の子。
不機嫌そうな顔が頭の中に鮮明に蘇って、目の前の男の子と重なる。
……あの時の、男の子だ。
それはまったくの偶然だった。
だって、もうきっと会う事もないだろうと、そう思っていたのだから。
あっちの反応はわからない、なんせ咄嗟に目をそらしてしまったのだから。―――――私に気付いただろうか?
「あ、三上先輩。なんですか?」
笠井くんが返答する。
「向こうで藤代が探してたぜ。あいつうるせーから、だまらせてくれ」
「誠二がですか?なんだろう。わかりました、行ってみます」
笠井くんはそう言って軽く頭をさげると、私の隣にいた後輩を促した。
遠慮がちに私に別れを告げる後輩に軽く笑い返しながら、手をふった。
そしてその場に取り残されたのは、微妙な接点のあるふたり。
私は去って行く後輩と笠井くんの背中をひたすら目で追ったまま、その場に立ち尽くしていた。私の目線とは逆のほう、つまり左向かいに、男の子―――三上とかいったっけ――――がまだそこに私と同じように立ち尽くしている気配を感じて、振り向けないでいた。それはなんというか、まるで自分の体が何かに操られていて自由にならないでいるように、振り向かないのではなくて、振り向けなかったのだ。
周囲のざわめきから唐突に切り離された感覚に陥って、私は息をつめた。
息をする、ただそれだけのこともうまくできない。
思っても見なかった突然の事態は、それがどんな些細な事であれ余計な狼狽をまねく。事実、今のいままで偶然成績表を見られてしまった彼のことなど、意識したことがなかったのだ。
それが、突然どうしてこうも私をドギマギさせるのだろうか。
きまずい空気が、私の心をさらに混乱させる。
そもそも私のことを覚えているだろうか、話し掛けたら変な顔をされないだろうか、いや、でもパンツ見られたしあの最悪な成績をみられたし、1000円のこともあるしいっそこのまますれ違った方が……気付かれない方が…いやでも、こうやってみてみると実はかっこいい気がするし、いやそういうことじゃなくて…
頭の中で色々な考えがあっちにいったりこっちにいったりして、私はどうしようもない優柔不断に陥ってしまっていた。人ごみの向こうに2人の背中が消えてしまってからも、私はどこかに2人の影が少しでも残っていまいか、とでもいうようにそっちの方向をじっと凝視していた。
三上とかいう男の子も、多分さっきから同じ方向を凝視している。なんとなくだけれど、視点の先で、目線が交差するようなそんな奇妙な感覚がずっとしているのだ。
けれど三上は何も言わない。立ち去ろうともしないし、動こうともしない。
……どうしろ、と。
お願いだから、何かいってよ!
祈るように、心の中で叫んだ。
つめていた息をわずかに吐き出して、そのせいで私はある事実に気付いてしまってはっとする。
私が立ち去ったり、何かを言ったり、動こうとしたりする選択もあるのだ、と。
それに気付いた途端、私は狼狽した。
全てを他人のせいにできないということに、気付いてしまって。
周りの空気が、ズンとさらに重くなる。沈黙がきわだつ。
だから初対面は苦手なのだ。けれど初対面じゃないのに初対面と同義なのは、もっと苦手だ。
だって、どういう反応をしたらいいのかわからない。
相手との距離が、わからない。
…それに、話し掛けるとしたって一体何をいえばいいのだろうか。
『元気?』
おかしい、こんなに間をおいて、元気、も何もないだろう。
『私のこと覚えてる?』
だめだ、なんかこれじゃあ卑屈になってしまう。
『いい天気だね』
そんなの見ればわかる!
ああもうわからない!
じゃあ、立ち去るべきなのだろうか。
何も言わずに、ただ静かに。
この微妙なきまずい空気から逃れるために早く立ち去ってしまいたい、という衝動と、ここまで対峙しておいていくらなんでもそれはないだろうという気持ちと、もうひとつうまく形容できない『なんとなく立ち去りたくはない』気持ちが心の中で葛藤する。
ああ、もうどうすれば!
頭を抱え込みたくなってしまったその時、遠くから、
「みかみせんぱーーーい!」
という、多分今現在私と同じ重い空気をわけあっているであろう、その人を呼ぶ声がきこえた。
それがまるできっかけにでもなったかのように、それまでどうやっても動きそうになかった私の頭が不思議なほど滑らかにクルリと回った。呼ばれた当人も、どうやら呪縛からとけたようだった。左側に向けた視線が、ちょうどこちらを振り返った三上の視線とばっちりと合う。
どくん。胸の鼓動が、大きくなった。
けれど一瞬そこに微妙な空気がながれて、さっきの状況にもどりかける気配を感じた私は、いけない、と思って咄嗟に口を開いた。
「…呼んでるよ」
「…知ってる」
三上が仏頂面で答えた。
「あ、そう」
私も負けずに仏頂面をする。
「……」
「……」
「……」
沈黙。
また、沈黙。
私はうつむいて、足下の砂利をつまさきでかき回した。
三上が砂利をける。
なんて不器用な会話だろう。いや、不器用というよりも、もうここまでくれば意地の張り合いでしかない。どっちが先に、負けを認めるか。というか正直なところ、沈黙という重々しい空気に狼狽するというよりもむしろ、私の中でいい加減うんざりする気持ちの方が強くなってきていた。私は消極的だけれども、短気ではあるのだ。
……ああ、もう!
「…なんか、しゃべってよ」
「なんか」
「……」
思わずあからさまにあきれた顔をしてしまった。
そらしていた目線を、ゆっくりと三上に戻す。
その時への字に口を結んでいた三上の口が、わずかに綻ぶその瞬間を、私は見てしまった。
「……1000円」
まるで長い間しゃべらなくて喋るのを忘れでもしたかのように、その声は微妙にかすれていた。
「は?」
「…雪ふらなかっただろ、1000円くれるっつったよな」
三上が意を決したようにそう言った。
「えー?そんなこといったっけー?」
私はわざとおどけてみせる。
「…っ、てめぇ…!…あー、馬鹿だからしょうがねえかー」
くだらない見栄とか意地は、ちょっと障壁を取り除いてやればいとも簡単に崩れ落ちる。私はその手助けをしてしまったみたいだ、と今更ながら後悔を覚える。どうやら真に残念なことに、この手のかかる相手は調子を取り戻したようだった。にやりと笑ったその表情が、全てを物語る。
「わー、今聞き捨てならないこと聞いた気がするんですけど」
「だって俺お前より成績いいし」
「あーそうですかー!っていうか人の点数覚えてる?ふつう」
「悪かったな、俺はお前と違って記憶力がいいんだよ。それに、衝撃的な点数だったしな」
にやり、と笑われて、私は絶望的な気分になってくらっとした。
何が悲しくて私はこんな人のために、さっきまで気まずい空気の中を泳いでいたのだろうか!
うだうだ悩んでいた気持ちと気まずい空気が、ぱっと霧散するのを感じた。
隔絶していた空間が、再び周囲のざわめきと一緒になる。
ほっとしかけたその時、横にいた三上に、唐突に誰かが話し掛けてきた。それがさっき三上を呼んでいた人なのだと、声の調子で気付く。
「先輩、お餅もうすぐなくなりますよ」
「米はまだあるんだろ?つけばいんじゃねーの」
「先輩ついてくださいよー。俺もいい加減餅食いたいっす!」
「…なんで俺なんだよ、中西とか根岸とか他に誰でも…」
「なんか、昨日の貸しがあるから三上先輩に頼めとか言われたんスよ。だから先輩。はい、杵。あそこ、臼。じゃあよろしくッス!」
「おいッ!てめっ、まてッ!おいばか代!!」
先輩の威厳はどこへやら、無理矢理に杵を押し付けられて呆然とその場に立ちつくす三上をみて、私は思わずぷっと吹き出した。
「てメェ…今笑ったな?」
「あはは!笑ってないよ!」
「おもっきし笑ってんじゃねえか!ったくどいつもこいつも…。あーもー、こいッ!」
「え、ちょまっ、どこいくの、ちょ、痛いって、ねえ!」
有無を言わさず腕を掴まれる。そして半ばひきずられるようにして連れてこられたそこは、他でもない、…臼の前。何のつもり?無言で問いかけの視線を送ると、三上もまた無言で、側におかれている、水が満たされた鍋に視線を向けた。
「…こねろ、と」
「頭イイじゃん」
「うるさいよ」
どこまでもムカツクやつだ、ひとをばかにして。私は返事のついでにジトリと睨み返した。けれどやっぱり三上はそんなもの意にも介さずとばかりに、涼しげな表情で炊き上がったばかりのもち米を臼の中に広げた。
「…っし、いくぞ?タイミングよくやれよ、タイミングよく」
「ハイハイ」
私はヤケクソで返事をした。
こうなればなんでもこい、の精神だ。
いつのまにか、さっきまでのきまずさがうそのように私の心は軽くなっていた。
まるで昔からしっている気の置けない仲間と会話をしているような、そんな雰囲気さえ感じてしまう。
あまりの変わりように思わず苦笑いをしてしまうのだけれど、それが嫌だとは思っていない自分を確かに感じる。
三上が杵を振り上げた。それを振り下ろすと、うまく擬音にできない、とどちらかというと間抜けな部類の餅をつく音が辺りに響く。私は三上が再び杵をふりあげるタイミングを見計らって、十分にぬらした手で臼の中のもち米をさっとこねた。
杵が餅をつく、上がる、すかさずこねる、つく、あがる、こねる、つく、あがる、こねる、つく、あがる…
「あっ」「ギャッ!」
「あっぶなあああああ!私の手ェつく気ッ!?」
「わりぃ。…つーか、お前が遅いんだよ」
「はいー?リズム感のかけらもない自分が悪いんじゃん、何いってんの?」
「はあ?お前こそ何いってんの?俺にリズム感がなかったらいったいこの世の誰にリズム感があると思ってんだよ?」
「あんた以外の全員にあるでしょうよ!」
「ねえよ!」
言い返そうとして、けれどその時一瞬臼の中の餅が目に入って、私は我に帰った。
血が上っていた頭がすっと冷える。
どうして、この人と話しているとつい感情的になってしまうのだろう。
「…どうでもいいけど、早く餅つかないと固くなるよ」
「…あ、おう、そうだな」
「普通さ、あれじゃない?なんか掛け声かけるんじゃない?」
「あー、それだ!掛け声ってふつうどんなだ?」
「そーれ!とはい!とかでしょう」
「却下」
「…なんでよ」
「そんなんダサい掛け声言えるか、っつーの」
「…ださいとかいう問題じゃ…」
「うっせえ!1,2とかでいいだろ、イチ、ニィで」
「え〜…」
「決まり。お前2な」
「あ、じゃあさあ、しりとりにしようよ」
「…人の話きいてるか、オマエ」
「いいよね、しりとりで」
「ハイハイハイ、わーったよ、いいよしりとりで」
三上は半ばうんざりしたように投げやりにそう言うと、再び杵を振り上げた。
私は自分の思い通りにいったせいで、笑いをかみ殺しながら鍋の水に手をつけた。
「アホ」
ペタン、三上の杵が餅を叩く。
思わず噴き出しそうになって、私は慌ててうつむいてそれをやりすごす。
「ほ、ほんとにばか」
こねる。湯気がたつ。
「かんちがいやろう」
「うしにくわれてしまえ」
「え、えんがちょ」
「ちょ、ちょ、チョーダサイ」
「いきだおれ」
「れ、れっとうせい」
「いかのしおから」
「らっきい」
「い…いか」
「かい」
「…チッ。いかいよう」
「うらない」
「いか…いかが塩辛い」
「いにわるい」
「いっぺんしね」
「ねちがえてしまえ、じゃなかった、ねちがえておしまい」
「…いっぺんといわずしね」
ペタン、杵が餅を叩く。
「ね、ね、ね…ねこのおんがえしなんてない」
こねる。湯気がたつ。
徐々にそのスピードが速くなり、手にこもる力が強くなる。そうやっていつしか二人の餅つきは必要以上にヒートアップしてゆくのだった。
餅をつき終えて、その疲労感に呆然とたたずんでいた二人の前に、さっき三上に杵を押し付けて逃げていった後輩がひょっこりと顔を出した。三上が無言でギロリと彼を睨む。
「さすが先輩!この餅やばい弾力性ありますよ!」
「そーかよ」
三上が半ば脱力しながらどーでもよさそうに言った。
「うまいですねえ、餅つき」
…餅つきごときで褒められても嬉しくもなんともない。私は三上とは対照的に朗らかに笑うその男の子を横目で見ながら、心の中でつっこんだ。
「それに息ぴったり!夫婦みたいでしたよー」
「「はあ!?」」
計らずともぴったりシンクロしてしまった声と、合ってしまった視線。きまず気に苦笑して、視線をそらした。
「ほら、ぴったり」
懲りずに嬉しそうに呟く後輩―藤代くん、といった―の背中に、勢いよく蹴りを入れる三上を見ながら、私は今ついたばかりのお餅を口に含んだ。
それはおそろしく熱々で、口に入れた途端にとろけてしまいそうな程だった。
なるほど、愛の結晶。
藤代くんの冗談に、私は思わず納得して、そんな自分に吹き出してしまった。
風にまった成績表を追って三上に会ってしまったこと、後輩に連れられて餅つきにきて三上に会ってしまったこと。
なんというか、それは多分偶然以外の何ものでもなかったのだ。
青い空と、澄み切った空気と。その中にぽっかりと浮かんだ冬の太陽は、暮の喧騒を静かに見下ろしていた。
なるほど、餅つきには ぴ っ た り の日和だと。けれどそれは偶然以外の何ものでないのだと。 ぴ っ た り と折り重なった餅をつっつきながら、私はぼんやりと思った。